8月20日シンポジウム基調講演要旨

和田律子氏による基調講演の要旨をご紹介します。

藤原頼通の文化世界 ─文化発信と知の共有の基層─」                                                                          
 頼通文化世界は、個個の文化活動が、人的環境の連鎖のなかで享受者を意識し、先行作品および当代の清新なことばや発想の共有を前提に、世に提示されたところに特徴のひとつがある。
  本報告では、如上の特徴を切り口として、頼通文化世界が、かつて言われていたような、頼通中心の一大血族集団による協調融和的(犬養廉氏)な、平穏で、しかし、新鮮味に乏しい世界であったのではなく、「協調融和」のなかで、知の共有を前提として、当代の文化の流行を積極的に取り込みながら文化活動の裾野を広げ、頼通の意思を強く反映した、活発な文化活動を展開した時代であったことを確認する。その際、『枕草子』世界との近接性なども視野に入れておきたい。
 はじめに、頼通の生涯とその事績を概観し、頼通が主導して文化世界を完成させてゆくさまをたどる。つぎに、文化世界の人的環境について、成立した作品と交差させながら見取り図を示す。そこからは、村上源氏や中関白家等との紐帯も含めた、道長時代とは異なる頼通中心の人脈の広がりが浮かび上がり、その人脈が文化世界の形成と知の発信・共有に深く関与していることがみえてくるであろう。そのうえで、『更級日記』『四条宮下野集』にみられる歌合との関連性を例としてとりあげ、頼通文化世界における知の共有の実態の一端を提示し、頼通文化世界の内実について言及する。