12月17日(土)第71回大会要旨➁

阿仏尼の表現方法に関する一考察―『十六夜日記』路次の記を中心に―
                                               長崎大学大学院 坂井伸子
 
 『竹取物語』をはじめとして、古来日本には、「月」をモチーフにした多くの文学作品がある。「月は、文学と深い関係にある。これは、古く太陰暦を使用していたことと密接な関係にあることは言うまでもない。」(勝俣隆氏)と述べられているように、その関わりは深い。
 阿仏尼の作品にも、「月」が登場するのは例外ではない。特に『十六夜日記』は、そのタイトルに「十六夜」という言葉が用いられているように、「月」の表現は、特徴的である。しかし、『十六夜日記』の先行論の中で、「月」について考察しているものは、意外に少ない。その一つは、佐藤茂樹氏が自然描写に関しての論文の中で、自然描写に関わる文章を取り上げ、その文に含まれる「月」の描写について分析されている。菅野洋一氏の論、冨倉二郎氏の論は、ともに「いさよふ月」に特化したもので、作品全体の「月」について言及するものではない。そこで、本発表では、『十六夜日記』における「月」の描写に注目し、阿仏尼の表現方法について分析したい。阿仏尼の他作品における「月」についても分析することで、阿仏尼の表現の独自性に迫りたい。また、暦日総覧を参考にしながら、当時の「月」の様子についても検討し、『十六夜日記』の月に込められた思いについても考えていきたい。