「女が歴史を書くということ―東ユーラシアの中の『栄花物語』―」

小山利彦氏・河添房江氏・陣野英則氏編『王朝文学と東ユーラシア文化』(2015年10月・武蔵野書院)が上梓されました。今もっとも注目すべきテーマのもとに、十六人の論客による全十七編の論考が並んでいるのは、まさに圧巻です。ここでは仮名日記にも多く言及している桜井宏徳氏の論考をご紹介します。ご論考「女が歴史を書くということ―東ユーラシアの中の『栄花物語』―」は、『栄花物語』を古代東ユーラシアの文化史・文学史の中に位置づけようとする、前例のない、新しい地平を拓く研究で、『栄花物語』の研究でも重要な位置を占めるものと思われますが、その過程で『栄花物語』が踏まえたであろう仮名日記についても、看過しがたい重要な指摘があります。『紫式部日記』を『栄花物語』に取り込んだ、その原典を尊重する姿勢は、『栄花物語』ではむしろ例外に属するとする桜井氏の指摘に、なるほどそのように考え得るのかと深い感銘を受けました。朝鮮王朝の女性によるハングルで書かれた歴史叙述、日記的叙述への言及もあり、仮名日記を考えるうえでも、本論の達成は大きな意義があるように思われます。