第72回大会発表要旨③

 今大会から運営委員会で合議の下、従来の研究発表と併せて、講演も依頼することになりました。最初の講演は高野晴代氏にお願いしました。

(講演)『更級日記』の和歌  
―日記における和歌を用いた表現方法をめぐって―
                日本女子大学 高野晴代
 
 『更級日記』は、連歌形式の一首を含めて八十八首の和歌を収載しており、作品全体の分量から考えると、『蜻蛉日記』よりも和歌が頻出する作品と言える。和歌を多数取り入れて、日記を執筆した作者の表現方法の特徴を明らかにする。
 日記の和歌は、物語の和歌とは異なり、自らの実生活にかかわる詠歌である。一方で、日記には作者の執筆意図に基づいて配置された和歌を載せている。紀行部分である「上洛の記」についての見解の一部は、拙稿「『更級日記』の「上洛の記」―『伊勢物語東下りとの比較を通して―」(『更級日記の新世界』武蔵野書院 二〇一六)において、和歌史の視点から、和歌を散文の世界に活かそうとした作者の意識が見られることを指摘した。
 今回は、それを踏まえた上で、特に作者の贈歌を取り上げる。この詠歌は、いわゆる「女からの贈歌」にあたるわけだが、本作品中には、たとえば贈答歌の場面描写にあたって、返歌を載せない記述というかたちで表現される贈歌が多く見出される。これは、日記の和歌という表現形式を通して、さまざまな詠歌の方法を示し、和歌はどうあるべきか、という問に答える収載方法を選び取っているかのようにも思われる。このような観点を捉え、作者の詠歌の意識についても検討を行いたい。