第72回大会発表要旨①

 第72回大会の発表要旨をご紹介します。まず最初の発表から、順次ご紹介していきます。

讃岐典侍日記下巻における追慕の限界
鳥羽天皇の力を対置してー
                       早稲田中学校・高等学校 一之瀬 朗

 
本日記下巻中、作者長子は見るもの聞くことにつけて故堀河帝を追懐・追慕してやまない。
 しかし一方で「おはしまさましかば」(「香隆寺」墓参の段)と言うように、長子の欲求は、故人の現在すなわち〈堀河帝のいま〉を感受することに移りつつもあるようだ。
 とするならば、追懐・追慕という過去に向かう営みをいくら試みたところで、そこに〈堀河帝のいま〉など存在するはずもなく、彼女の欲求が満たされきれないのは当然といえる。
 以上のことから考えると、本下巻は言われるごとく確かに追慕の記ではあるけれども、それとともに、追慕の限界が綴られた記でもあることに気づかされるだろう。
 この点について、さらには鳥羽天皇の「うつくしさ」がいかに長子を慰めようとも、結局は彼女を堀河帝喪失の哀傷から救済し得ていない事例(「笛の譜」の段等)を引証しつつ、論じてみたく思う。