第69回大会要旨①

第69回大会における発表者の要旨を発表順にご紹介します。


『讃岐典侍日記』における鳥羽帝の存在をめぐって          
                                                                                  柴田まさみ


  まるで季節が夏から秋に移ろうようにして、『讃岐典侍日記』の時空は、〈われ〉として登場する書き手が、弱りゆく堀河帝を看護る上巻から、新帝鳥羽天皇に再出仕する下巻へと展開する。
 もとより、下巻においては、亡き堀河帝の追慕が、叙述の基軸であるため、鳥羽帝出仕に関する具体的事項が詳述されることは少なく、なおかつ、新帝は「をさなし」「いはけなし」「あはれなり」などと描かれることが多い。ゆえに、その幼児性が、しばしば指摘されているが、全くそのとおりであろう。とは言え、〈われ〉にとっての鳥羽帝は、例えば、嘉承三(一一〇八)年八月条の一節、鳥羽帝がお休みになられているところを目の当たりにして、〈われ〉は、「変はらせおはしましし」と吐露するのだが、これは、亡き堀河帝のお姿がお小さく変わられてしまったといった内容であり、そうした展開を読むときに、〈われ〉にとっての鳥羽帝は、もはや、単なる幼帝ではないと痛感させられるのである。
本発表では、〈われ〉と鳥羽帝とのかかわりを再び読み解くことで、今一度、当日記における鳥羽帝の、〈われ〉に対する存在の役割について、いささか、考えてみたい。