第73回大会要旨②

 今回は渡邊久壽氏にご講演を依頼しました。

 日記文学性の生成 ―『蜻蛉日記』をひもときながら―

                      山梨英和大学(非) 渡邊 久壽

 
  本テーマを「日記文学の生成」にしなかったのは、日記文学的性格の生成に特化するためである。あるいは「日記文学の生成」に包摂されてしまう内容でもあろうが、事実の記録としての「日記」と、それを越える「日記文学」のあり様の相違の、もう一つ先にある課題に関心を絞って一緒に考えていただきたいと思ったからである。

「日記」との相違は、日次記でなくまとめて書いてあり体験の直接記録ではないこと、虚構がありうること、文学としての主題を持つこと、おおよそこの三点であり、木村正中氏などがまとめられ、基本線に踏襲されてきた。

ただその先に、例えば、まとめて書くと何が起こるのか、体験を踏まえたり素材としながらも直接記録ではない表現はどう化学変化するのか、虚構といっても当初からそれに依拠して文学性を保証されている物語の虚構性と、日記文学の虚構性の相違をどう考えていけばいいのか、文学としての主題といっても執筆目的や意図・目論見・狙いといった観点からは捉え難い日記文学固有の主題の立ち現れ方をどう理解するか等々、柔らかく考えていかなければならないことが多々ある。

今回は、『蜻蛉日記』始発部数年の記事を通時的に辿ることで、文学精神の発現する個々の表現に着目、日記文学性が生成される現場に立ち会い、日記文学の魅力を呼び戻していく。