作品を読むということ

 作品を読みこむことの大切さをあらためて教えてくれるのが、渡邊久壽先生の「『蜻蛉日記』の「序文」再考」(明治大学文学部紀要「文芸研究」第百二十六号・2015年3月)です。ご論文は序文を縦横無尽に論じ、間断とするところがありません。活字テキストで通常1ページ分程度の分量の序文がいかに多くの内実を備えているのか、この論文は叙述の内面に深く踏み込むことで、精密に、しかも豊かに掘り起こしていきます。
そして、その「読み」が深い作品理解によって規定されているところに、まさに研究者でしかなし得ない「読みの凄み」が実感されるのです。作品を読むとはどういうことか、日記文学を読むとはどういうことかをあらためて考えるためにも、ぜひご一読をお勧めしたいと思います。